相続放棄の熟慮期間

文責:弁護士 井川 卓磨

最終更新日:2023年12月05日

1 相続放棄の熟慮期間の原則

 相続人が相続放棄をする場合には、期間の制限があるので注意が必要です。

 相続放棄をしようと思っていても、この期間内に手続きをしなければ、相続放棄ができず、結果的に被相続人の借金などを引き継ぐことになってしまいます。

 この期間のことを「熟慮期間」といいます。

 熟慮期間は民法で3か月と決められており、この期間内に相続放棄の手続きをするのかどうかを決めなければなりませんし、放棄のための書類を準備し、家庭裁判所に相続放棄の申述の受理を申し立てる必要があるのです。

 この熟慮期間の起算点は、「自らが相続人となったことを知った日」とされています。

 まず、「亡くなった日(相続開始日)」ではありませんので、亡くなった人の子供が亡くなったことを知った日が実際に亡くなった日よりも後である場合には、熟慮期間の起算点は「亡くなったことを知った日」ということになります。

 相続放棄の手続きが亡くなった日から3か月以上が経過している場合には、「亡くなったことを知った日」は「亡くなった日」より後であることを説明していく必要があります。

 亡くなったことを知る経緯についてはさまざまなものがありますが、亡くなった方の債権者から通知がある場合、市町村から通知がある場合、他の親族から知らされる場合などがあるでしょう。

 そのような場合には、連絡文書や通知書などの書類や、携帯電話への通話履歴などを裁判所に提出することになります。

 後順位の相続人は、先順位の相続人が相続放棄をしなければ相続人となりませんから、その場合には、「先順位の相続人が相続放棄をしたことを知った日」が起算点になります。

 このような場合にも、しっかりと「知った日」の証拠を残しておきましょう。

 少し特殊な事例ですが、相続人が熟慮期間中に相続放棄も相続もすることなく亡くなったというケースがあります。

 この場合には、亡くなった相続人の相続人が、その者が亡くなったことを知った日が熟慮期間の起算点になります。

2 相続放棄の熟慮期間の例外

 なお、自らが相続人となった日から3か月以内に相続放棄の手続きをしなければ相続放棄はできなくなるのが原則ですが、例外が認められています。

 すなわち、相続人が相続放棄をしなかった理由が、相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、このように信じたことについて相当な理由がある場合には、熟慮期間の起算点は、相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識することができた時となるとされています。

 そのため、たとえば、相続人が亡くなった方には相続財産がないと思って放置していたところに、後から債権者などからの通知によって債務があることが判明した場合には、その通知を受け取った日が熟慮期間の起算点となるのです。

 これは、このような場合にまで相続人に相続をさせるのは酷であろうという価値判断のもとでの救済措置だと考えることができるでしょう。

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